|
2004年11月号
「死」についての読書案内
先日、やっと卒論(卒業論文)のアウトラインを提出することができた。読み返して気づいたことがある。そこに出てくる事柄は、卒論に取り組み始めるよりずっと前から、すでに出会っていたことが多いということだ。読もうとして、その当時は難しそうに思えて読まなかった本、気になりながら放っておいた事柄などなど。以前のノートや、レポートなどを読み返すと、分かっているつもりのことに再発見があったり、すっかり忘れていたことを思い出したりすることがある。私は、日記や各種の記録ものが苦手なのだが、そういうことは結構大事だなと思った。
今回は、卒論のアウトラインに出てくる事柄の中から、「死」についての読書案内として、2冊の本をご紹介します。
一つ目は、『未来分析』。これは、学校のレポート課題の対象だった本である。1章ごとに要約と感想をまとめなければならず、3年前の当時はとにかく必死にこなしていた感じだった。まさか、自分の卒論の中心的文献になるとは、想像もつかなかった。
3年前のレポートには、「元気になれる科学があったって良い、感動する学問があっても良い、泣きそうになる研究があっても良いんじゃないか、と思った」などど、やや興奮気味の、えらく感動したらしい感想が記されている。なぜ当時そんなに感動したのかを、冷静に考えてみる。
私はそのレポートを書いた時、病気と経済事情により大学を1年休学した後、復学したばかりだった。復学直前にした結婚生活も、まだ不安だらけだった。「治らない」と当時言われた病気のことが、とにかくショックで、自分のこと全てに自信を失っていた。また、時々来る猛烈な痛みへの恐怖が、痛みの無い時にまで影を落としていた。今なら、予期恐怖ともいうべきこの現象にもだいぶ冷静になれるのだが、あの時はひどく怯えたし、死ぬかも知れないと思うこともあった。痛みの最大値がどんどん上がるに連れ、この延長線上には何があるんだ、どうなってしまうんだと、自動的に考えてしまうのだ。
そんな当時、この本に出会った。ひとことで言うと、「因果律(因果)」は、時間の流れの方向に、必ずしも一致しないということと、未来を志向することの重要性を説いた本である。
例えば、「弾丸」と、「船」のモデルがある。弾丸は、一度発射されると、その行き先は、撃った時の強さや方向などに規定される。弾丸が途中で行き先を変更したりはできない。ところが、船には舵があり、ある時点を切り取ってみたところで、その行き先は、出発した時点の強さや方向などには関係ない。これからどうするかの舵取り、目的地へ向かっての舵取りに規定されるのだ。
私は日ごろ当たり前のように、過去はこうだったから今はこう、将来はこう、とか、今がこうだからどうせ将来もこう、などと思っていたが、この本の「人間には舵がある」という記述に、非常に感動したのだ。以前も痛い、今も痛いから未来もきっと痛い、と恐怖に慄いていた状態から、目標や夢をもってそれに向かっていくように変わったのだ。もちろんそれ以前にも、前向きな考えを全然していなかった訳ではないが、理論付けというか、決定打になったのである。そしてその時に私は、未来分析やその基になっている発達人間学を研究しようと決めたのだった。
私の至らない表現では、うまく説明し尽くせないが、すっと読める分かりやすい本なので、ぜひ一度お読みになってください。
2冊目は、『鏡の中、神秘の国へ』。
この本は、重い病気の女の子セシリエのところへ、天使アリエルがやってきて、存在や生と死、世界について哲学的な話を繰り広げる、という内容。こう書くと、何か陳腐のようだが、全くもって「お決まりのパターン」「お涙ちょうだい」などとは異なっている。非常に鋭くて、深い、ごまかすことなくしっかりと考えている話だと思う。
私の気に入っている部分を以下に挙げる。
「生まれるってことは、世界をそっくりプレゼントされるってことなんだ。」(アリエル)p37
「ある日突然、あなたの番が回ってきた。神さまがつくったものを、あなたが見る番がね。
(略)そして、すべてはこのうえなくすばらしいっていうことを、とっくりと見届けた」(アリエル)p38
「おとなたちはふつう、世界にすっかりなじんでいる。だから、創造物をどれもこれも、ただそこにあるものって受けとめてる。
そんなの、ほんとうはおかしいよ。ほんのしばらく、ここに来てるだけなのに」(アリエル)p40
「ふしぎなことはいっぱいあるわ、ママ。
いまわたし、病気になって、いろんなことがよくわかってきたような気がするの。世界がくっきりと見えてきたの」(セシリエ)p61
私はこの話を読みながら、共感したり、感動したり、発見したり、いろいろなことを思い、考えた。特にラストは、固定観念を打ち砕かれた。
私は、痛くて「死ぬかも知れない」と思ったことは何度もあるが、死にたいと思ったことは一度だけある。正確には、アッラーに「あなたのそばに行きたい」と願ったことが一度だけある。「もう一人では無理だから、誰か人を与えてくださらない限りは」と。いろいろな問題があった時期で、それを一人で飲み込むしかないと思いつめていたときだった。結局その時は、そう願うことで少し楽になったこともあり、また人との出会いに恵まれて、次に進むことができた。
病気になったことで、死や、生きることについてすごく真剣に考えるチャンスをもらって、本当に良かったと思っている。死にたいとはもう思わない。今は、研究や、生活や、身の回りのこと全て、いろいろなことがおもしろくて仕方が無い。生まれたての赤ちゃんのような気持ちだ。嫌なこと、恐ろしいこと、すごく心が痛むことなども勿論あるが、それでもやはり、アッラーの創造された世界は、本当に素晴らしいと思う。
いつか私が死ぬ時には、私はこの世界との別れを惜しんで泣くだろう。そして願わくばアッラーの元に帰れたなら、あの時の願いをとうとう叶えてもらったと、また泣くだろう。
そんなことをこの本を読んで考えたりした。
物語としてもとてもおもしろく、子どもでも楽しく読める本だと思うので、ぜひ一度ごらんください。
今回ご紹介した本
『未来分析』 守屋國光著 ナカニシヤ出版
『鏡の中、神秘の国へ』 ヨースタイン・ゴルデル著 池田香代子訳 NHK出版
#カレッジの小石〜小さなわたしの、オクスフォード旅行記〜はお休みです。

Copyright (C) 2004 やすらぎweb.com.
All Rights Reserved. |