2004年9月号 

『ザ・メッセージ』 The Message


 

今年もまたラマダーン月が近づいてまいりました。日が落ちてから皆で食事をとったり、イードがあったり、と私にとっては「ツライ一ヶ月が来る」という意識よりも、なんとなくお祭り気分といったほうが近い雰囲気です。そんなラマダーン月に思い出のある映画があります。それは『ザ・メッセージ』です。多くの読者の方はもちろんご存知だと思いますが、預言者ムハンマドの生涯を描いた映画です。私がこの映画をはじめて見たのは2年前のラマダーン月、豊島区大塚のマスジドでのことでした。女性の勉強会でのことです。私はその頃イスラームについて本格的に学び始めた頃で、勉強してきたイスラームの背景になる歴史が手際よく学べ、ハディースに出てくる教友や事件がより理解しやすくなりました。

 

それと共に、戦いのシーンなど映画の要所要所で涙するムスリマ達を見て、ここに描かれているのと同じ世界を共有し、イスラームを「生きて」いる人達がここにいるんだ、という実感も非常に強く沸いてきました。そして、ムスリム達というのは私とかけ離れた人々だというわけではなく、映画を見れば感動する普通の人たちなんだなぁ、私と同じなんだなぁ、と納得しました。「映画を見て感動すれば普通なのか?色々な背景があって感動しているのであって、同じだとは限らないのでは?」と思われるかもしれませんが(今なら私もちょっと首をかしげるかもしれません)、その時はそう思ったのですから、仕方ありません。


ところで、この映画では偶像崇拝を禁じるというイスラームの理念にのっとり、ムハンマドの姿は描かれていません。預言者ムハンマドが関わる場面では、彼の存在を暗示させる音楽がかすかに流れ、カメラの目線が彼の目線となって人々の姿を捉えます。その描き方や映画自体の解釈、キャスティングなどについて、人によっては色々批判や意見もあることかと思いますが、イスラームそのものと預言者ムハンマドのしたことについて描いている唯一の映画という点で、私は高く評価したいと思っています。ムスリムでもそうでなくても、見て歴史とイスラームの教え、そして初期の共同体について学ぶ事ができます。キリスト教に関係する映画の多くは多くの人の心を動かしていますし、宗教に対する良いイメージも多く生み出すことが出来ています。この効果について、少し考慮してみてもいいのではないでしょうか。まぁ、クルァーンとハディースからしっかり学べばいい、映画で見て知る必要はない、という意見もあるかもしれませんが…。


さて、あらすじはイスラームの歴史そのものです。西暦600年当時のメッカは、クライシュ族をはじめとする富裕な貴族たちが利己的な物欲主義にこりかたまり、貧富の差が激しい土地でした。彼らはカーバ神殿に多くの神を祀り、偶像崇拝を行っていました。その頃、メッカ近郊のヒラー山の洞穴で、一人の男が、天使ジブリールによって啓示を授かったという噂が流れ、クライシュ族の若者に大きな反響を起こしていました。唯一絶対の神アッラーの使徒として、神の前の平等を説き、現状のままでは世界の終りも近いことを予言し、道徳的退廃とそれから生じる社会矛盾を改めるための正義を説く預言者ムハンマドの教えに、若者たちはしだいに共鳴していきます。

 

大商人たちにとって、預言者ムハンマドの一神教の教えが広まることは、カーバ神殿の大祭にともなう定期市がすたれ、大きな収入がなくなることを意味しました。そこで彼らは、預言者ムハンマドと彼の教えを信じる者を無残な方法で迫害し、メッカで完全に孤立させてしまいました。そこで預言者ムハンマドはメッカでの伝道を断念し、メッカの北方 480キロの町メディナに移った(622年、「ヒジュラ」)。彼らはレンガを積み上げてささやかな聖堂を築き、黒人奴隷ビラルが礼拝時刻の告知者となり、聖堂の上に立ち、朗々たる声で信者たちに祈りをよびかけたのでした。


ところが、メッカに残してきた家族が迫害され、所有物が押収されていることを知った信者たちは自分たちの信念を守るためにメッカと戦わなければならないことを悟ります。624年、紅海沿岸のバドルで、イスラーム軍はメッカの大軍を破りますが、翌年のウフドの戦いで逆に敗れてしまいます。しかし、過酷な戦いの連続がムスリムたちの団結をさらに強め、かつて一国家にまとまったことのない多数の部族のあいだに、初めて統一の動きが現れてきました。


628年、1400名の信者を引き連れてメッカに向かった預言者ムハンマドは、メッカとの間に10年間の休戦条約を結び、メッカに凱旋します。そこで彼が最初にやったことは、カーバ神殿にまつられていた多くの邪神の像を破壊することでした。神殿の屋上によじのぼったビラルは、「アッラーは唯一絶対の神なり」と呼びかける……。


私がこの映画で一番好きなシーンは、クレジットタイトルとかエンドロールなどと呼ばれる最後の部分です。そこでは、礼拝のためのアザーンが世界各地のモスクから流れている様子が映し出されています。各地のアザーンが重なり、イスラーム圏にいるような気分になります。こここそ、預言者ムハンマドの「メッセージ」が全世界に広まっていったことが表されているように思います。それを見ると、「メッセージ」の内容もさることながら、どんなに広がっていったことかと、その力に圧倒される想いがします。


残念ながら、トルコでこの映画を見た、という人によればこのシーンはカットされて放送されたそうです。誰も見る人がいないから、クレジットはだいたいカットされてしまうのはわかりますし、日本でも(特にビデオやテレビで見る場合など)クレジットを最後まで見る人はあまりいないかと思います。ですが、このビデオは是非そのシーンを見てから消して欲しいものです。


「一年で一番神聖な気分になる」という人が多いラマダーン月の前に、アッラーからの「メッセージ」である預言がくだった状況を把握し、預言者について想いをめぐらせてみるというのはいかがでしょうか。


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『ザ・メッセージ』 1976年 モロッコ・クウェート・リビア・サウジアラビア 180分


監督:ムスタファ・アッカド


出演:アンソニー・クイン(ハムザ)/イレーネ・パパス(ヒンド)/ジョニー・セッカ(ビラル)

 


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