2003年7月号 

ムハンマド、タイフへの旅


ムハンマド(彼の上に平安あれ)はアッラーからみ使いに選ばれた後、九ヵ年にわたり、メッカでその啓示された教えを人々に伝えてきた。しかし、民衆を導き彼の教えを広めんとするあらゆる努力はなんの成果も収め得ず、彼の信条を受け入れないけれども彼を助けたわずかな人々を除き、メッカにおける多くの者は、彼及び彼の追従者たちを迫害嘲笑するのみで帰依しようとしなかった。彼のおじのアブ・ターリブはイスラームに帰依しないが、好意をもって彼を援護するただ一人の人物であった。このおじが死んだ翌年から、クライシュ族(み使いの属するメッカの有力な一部族)は遠慮ない手段で無慈悲に迫害をはじめ、とどまるところがなかった。


タイフはヒジャーズにおけるメッカに次ぐ二番目の大都市で、人口においてすぐれているバヌ・サキーフの一族が住んでいた。それでみ使いは彼らを、イスラームに改宗させようと思ってタイフに向かった。そしてクライシュ族の迫害に対し防備のよりどころとし、かつ将来のイスラーム発展のための拠点を建てようとした。


タイフに着いて彼はその部族の三人の首領を別々に訪問して、アッラーの啓示を示して彼に組するよう要望した。それに対し彼らは教えを受け入れようとせぬのみか聞くことさえしなかった。そして例のアラブ式の歓待法で横柄に粗暴に彼を待遇し、彼がこの町にとどまることに率直に拒絶した。み使いはこれに対し穏便に誠心誠意対応し、彼らもみ使いが有力な部族の首領の一人であるので、言葉の上では丁重であった。しかしある一人は罵倒した。


何だって!神が君をみ使いにしたのだと!
他の一人は嘲笑して叫んだ。


神は君のほかに、み使いとして、他の誰かに彼のみ手を下されないということがあろうか!
また第三の者はあざけって言った。


私は君と話すことを好まない。もしも君が事実み使いであるのなら、君に反抗する者はきっと苦難に陥るであろう。また君がただそうだと偽っているのならば、どうして私がペテン師と共に語ることができよう?


み使いは堅固不抜で忍耐強かったので、これらの人々の妨害にいささかも動ずることはなかった。そこで、直接大衆に近づこうと試みたのであるが、誰ひとり彼を聞こうとする者はなかった。むしろこの町をすみやかに去って、どこでも彼の好む他の地におもむくように頼むのである。こんなありさまで、このうえ努力を続けることが不可能になったので、彼はこの町を去ろうと決心するに至った。しかし、彼らは平穏に彼を立たせなかった。町のならず者を彼の行く手に回してあざけり野次り、ついに石を投げたりした。彼はそのために全身が血まみれになり、靴の中にたまった血のために歩き難いほどであった。彼はこんな恐ろしい状態で、やっとこの町を去ったのである。彼が遠くこの町を離れ、ようやく野次馬の危険が去ったとき、彼は次のような祈りをアッラーにささげた。


おお、アッラーよ!私の力量のなさ、また私に充分な計画のなさ、さらに民衆の目には私が一向に認められていないことを嘆きます。慈悲を垂れたもう方のなかで最も慈悲深いあなた、あなたは弱い者の主であり、また私の主であります。あなたは私を何人に託されるのでしょう?不機嫌な不興のいろを見せる全く同情心のない反対者でしょうか。それとも私の指名を達成する上に力になる、あなたが支配されるいずれかの他の部族でしょうか。少なくともあなたから私に賜るであろう保護のほかは、何ものに対しても私はいささかも顧慮いたしません。私はあなたの前のみ光りのなかに私の隠れ場を求めます。それはパラダイスを照らし、あらゆる暗黒を消滅する光り、またそれは現世並び来世のあらゆる事柄を支配するみ力であります。それは決してあなたのお怒りを招かないでしょう。また決して私に対し機嫌も損しないでしょう。私はあなたがご満足なされるまで、あなたのご不興の原因をとり除きます。あなたから賜る以外には、なんの堅固さも力もありません。


この祈りによって天が開けて、天使ガブリエルがみ使いの前に現れ、アッサラーム・アライクム(あなたの上に平安あれ)と挨拶をして言った。


あなたと彼ら民衆の間に起こったすべてのことをアッラーはご存知である。彼は一天使を代理としてつかわされた。あなたの支配の下にある、山の保護を受けられよ。


と言いながらガブリエルはその天使をみ使いの前に案内した。彼はみ使いに挨拶して言った。
おお、アッラーのみ使いよ!私はあなたに仕えます。もしあなたがお望みなら、この町の両側に見える山々を合わさせ、そこにいるすべての人々を押しつぶすことができます。それともあなたは別に彼らを処罰する方法がありますか。


これに対しなさけ深い高潔なみ使いは答えた。


たといこれらの人々がイスラームを受け入れなかったとしても、私は彼らの子孫のなかから、アッラーを信仰し、その道に使える人々が出るように、アッラーに祈りをささげます。


われらが追従することを誓うみ使いのこのような言行をみるとき、われわれはあまりにもわずかな困難でへこたれ、あるいは他人のたんなる評判の上にくよくよと一生を悩み続けている。こんなことで度量の太いみ使いに従うことを熱望している者といえようか。見よ、タイフの暴民からあれほどまでに苦しめられた後でも、彼らをののしるでもなく、また機会があったにもかかわらず、なんら報復の行動にも出なかったのである。

 


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