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2007年9月号
あらしのよるに
イスラーム暦は月の満ち欠けを基準にして作られていますので、毎年毎年、違った時期に特定の月が移動して来ます。ムスリムでない人にも有名な「断食月」、「ラマダーン」(またはラマザン)月が今年もやってきました。私がイスラームと関わり始めた頃はこの月が冬でしたので、割と日も短く、日中も寒いので比較的断食を行うには楽なように思いましたが、だんだん夏に近づいていっているのを見ますと、本当に大変なラマダーンはこれからの数年なのだろうと思います。更にその「真夏のラマダーン」は自分の一生のうち数回しか来ないんだろう、と思うとなんだか感慨深い気もします。
さて、ラマダーンの一ヶ月には様々なイベントがあり、色々なことを学び、人々との縁も深まるものですが、もちろん一番の関心事といえば食事制限(断食)でしょう。生活に不可欠に思える大切なものを少しの間退け、そこで自分自身と対話するがゆえに見えてくるものがあります。手軽にそういう状況を作り出せる「食」。とても大切なものですが、もし食べ物が食べられる状態にあるにもかかわらず、そのモノが自分に好意を示してきたらどうしましょう?そのモノを食べずに仲良くすることは出来るのでしょうか?また、それは必要なことなのでしょうか?
と、いうわけで、今回ご紹介するのは捕食関係にある動物たちによって繰り広げられる物語です。
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ある嵐の夜、仲間とはぐれたヤギのメイは、壊れた山小屋に避難した。するとそこへ、同じように嵐を逃れてやってきた「誰か」がいた。小屋の中は真っ暗でお互いの姿は見えないものの、心細かった二匹は言葉を交わし、思わぬ共通点を見つける。互いに同じ種類の生き物だと信じきって次第に仲良くなっていく二匹は「あらしのよるに」を合い言葉に、明日の再会を約束してそれぞれ小屋を後にする。
翌日、待ち合わせの小屋でメイの前に現われたのは、なんと普段は羊を襲って食べているオオカミ集団の一匹、ガブだった。ガブは「羊は食べない」と空腹に耐え、メイと仲良くやっていこうとするのだったが、この友情に互いの属する集団は猛反対するのであった…。
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もともとベストセラー絵本であるためか、コンセプトは面白く、なんだかんだで友達になってしまうガブとメイもほのぼのとした感じで、何も考えずに見ていると素敵な感動物語として終わっていきます。しかし、よく考えてみると、とても奇妙な話であることに気付き、なんとなく「絶賛の嵐!」「文部科学省推薦!」に異を唱えたくなってしまいました。
奇妙である、という感想を説明するのはとても難しいのですが、この話のテーマに関してのことです。まぁ、原作と映画版は違うだろうし、作者の意図もまた私の解釈とは異なるのかもしれませんが、話からは「異質なもの同士でも分かり合える、友情で困難も乗り越えられる」というのがテーマなのだろうと思いました。けれど、この映画で描かれる「分かり合い」はどちらか一方の大きな犠牲の上に成り立っています。
というのも、ガブが羊を食べることを我慢しない限り、また、肉食をやめない限り、メイには認めてもらえないからです。こっそり、メイが寝ている隙に動物を食べに行くという気遣いをガブが見せてすら、メイからは尊大な態度で「それは嫌なんだ、やめてほしい」といわれてしまいまです。
友情(特に属性の異なるもの同士)にはもちろん大きな苦労が伴うものであり、それを差し置いてすら一緒にいたい、何かしたいと思うというのが本当の友情であるというのは納得です。でも、その苦労は片方だけが背負うものなのでしょうか。ガブが主食である肉を食べない代わりに、果たしてメイは自分の主食である植物を食べるのを我慢できるでしょうか。私が見た限り、それは無理だろうと思いました。
確かに狼は肉を食べずとも暮らしていけるかもしれませんが、だからといってそれを強いて良いというものでもありません。片方の我慢で成り立つ友情というのは、長続きするのでしょうか。もちろん、我慢しているうちに我慢が我慢では無くなり、「尽くす」といった形になるということもあるでしょうけれども、そんな、友情を越えた「究極の愛!」というような形にこの二匹がなるとは思えませんでした。
危ない橋を渡るようなこの友情、ここから得られるのは「どんなに異なった種類のものでも分かり合って仲良くすることは出来るんだ」という、ぱっと見の信念だけではなく、「狼が必ずしもいい狼とは限らない。もしいい狼だったとしても、羊は能天気に自分のことだけ考えていてはだめなんだ。狼が我慢しない限り羊の幸せは有り得ないって事を狼にわからせなくては羊はやっていけないんだから、羊もそれ相応の努力をしなくてはならない」という条件でしょうか。
なんだか批判めいたコメントと重ーい話題になってしまいましたが、食べる、という日常生活の大きな部分を占める出来事から心を離すことの出来るラマダーン月の日中、このように全く性質の違うモノと仲良くやっていくにはどうしたらいいのか?「分かり合う」とはどういうことなのか?それを他者と共有するにはどうしたらいいのか?などなど、この物語から発展させられる問いを考えてみてもいいのかもしれません。
でも、狼や羊と違って、人間は何を食べても食べなくても食べられなくても、替わりのモノがあるのでいいですね。
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『あらしのよるに』 2005年 日本 107分 アニメ
監督:杉井ギサブロー
原作:きむらゆういち
声の出演:中村獅童(ガブ)/成宮寛貴(メイ)ほか

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